やがて冬が去って、また春となりました。
ちょうどそのころ、この二つの国は、なにかの利益問題から、戦争を始めました。
そうしますと、これまで毎日、仲むつまじく、暮らしていた二人は、敵、味方の間柄になったのです。それがいかにも、不思議なことに思われました。
「さあ、おまえさんと私は今日から敵どうしになったのだ。私はこんなに老いぼれていても少佐だから、私の首を持ってゆけば、あなたは出世ができる。だから殺してください。」と、老人はいいました。
これを聞くと、青年は、あきれた顔をして、
「なにをいわれますか。どうして私とあなたとが敵どうしでしょう。
私の敵は、ほかになければなりません。戦争はずっと北の方で開かれています。私は、そこへいって戦います。」と、青年はいい残して、去ってしまいました。
国境には、ただ一人老人だけが残されました。青年のいなくなった日から、老人は、茫然として日を送りました。
野ばらの花が咲いて、みつばちは、日が上がると、暮れるころまで群がっています。
いま戦争は、ずっと遠くでしているので、たとえ耳を澄ましても、空をながめても、鉄砲の音も聞こえなければ、黒い煙の影すら見られなかったのであります。
老人はその日から、青年の身の上を案じていました。日はこうしてたちました。