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お知らせ。

「きのう、十なん年ぶりで、うちへもどってきたんだ。
ながいあいだ悪いことばかりしてきたけれど、こんどこそ改心して、まじめに町の工場ではたらくことにしたから、といってきたんで、ひと晩とめてやったのさ。
そしたら、けさ、わしが知らんでいるまに、もう悪い手くせを出して、このふたつの時計をくすねて出かけやがった。あのごくどうめが」

「おじさん、そいでもね、まちがえて持ってきたんだってよ。ほんとにとっていくつもりじゃなかったんだよ。ぼくにね、人間は清廉潔白せいれんけっぱくでなくちゃいけないっていってたよ」

「そうかい。……そんなことをいっていったか」

 少年は老人の手にふたつの時計をわたした。
うけとるとき、老人の手はふるえて、うた時計のねじにふれた。すると時計は、また美しくうたいだした。

 老人と少年と、立てられた自転車が、広い枯野かれのの上にかげを落として、しばらく美しい音楽にきき入った。老人は目になみだをうかべた。
 少年は老人から目をそらして、さっき男の人がかくれていった、遠くの、稲積の方をながめていた。

 野のはてに、白い雲がひとつういていた。